小さな装飾品
こんにちは。
ある日僕は、マルチェロ君にダンジョンに誘われました。
小さな装飾品のことかな…
あんまり…話したくないけど…
「…わかったよ」
マルチェロ君は何も言いません。
ただ無言で、淡々と魔物を倒していきます。
『……』
無言のままダンジョンを制覇して外に出ると、みんな心配していたのか、入り口に待っていました。
僕はその間を逃げるように抜けようとしました。
「ル、ルーカス…!」
マルチェロ君が僕を呼び止めます。
「ちょっと、ついてきてほしい…」
連れてこられたのはあの酒場です。
マルチェロ君はおもむろに切り出しました。
「あの…ごめん…」
「…」
「言い訳するつもりはないんだ…ただ、その…妻に浮気を疑われて……。捨ててしまったことは本当に申し訳ないと思ってる…ごめん…」
このことの信ぴょう性は怪しいです。
でも、その捨てられた装飾品は、また誰かの手に渡って、本当に必要な人の元で輝いている。
理由は何であれ、元々いらなかった人の元にあるより、だいぶいいじゃないか。
「いいよ。元々押し付けた僕も悪かったんだ」
「あ…ありがとう……!」
それから、今まで話さなかった分を取り戻すように、2人でたくさん話しました。
帰り際にマルチェロ君にこんなことを言われました。
「もちろん、大切な親友だと思ってるよ!」
喝
こんにちは。
今日は、母国では探索デーです。
嘘です。
でも今日はどこかにこもりたい気分だったので、あっちこっち探索に出かけます。
あまり、1人では行けなかったけど…。
まずはローレンシアちゃんに誘われました。
「ルーカス君強くなったね。武術系の仕事につくの?」
「いやいや、僕は農業をゆっくりやりたいんだ。ノルマとかは気にしないで、僕のペースで、自然と関わっていたいんだよ」
「自然と関わっていきたいルーカス君が、その自然を倒しに行くなんて、なんとも言えない画だね(笑)」
鋭く突っ込まれましたが、あえて何もいいません(笑)
次に誘われたのは、今では僕の色んなことの相談に乗ってくれるリナさん。
「また何か悩んでる顔だったからさー」
「お見通しってやつですか」
「私も壮年とはいえ、まだ独身だもの。ポイント上げて強奪のタイミングを狙ってるのよ」
「ちょっ…リナさん…?!」
「冗談よ、バカね。私の好みはヤニックよ」
そう言って、ヤニック君の良さをひたすら語るリナさん。
「…ふぅ。あのね、あなたがまーた困ってるって風の噂よ。いちいちクヨクヨしてないで、流れに任せちゃえばいいのよ」
国内での僕に対する評価がひしひしと伝わってくるような。
「彼女からプロポーズしてきちゃうかもしれない、そんな時は、僕から言いたいから、もう少し待っててとかなんとか、言えばいいじゃない!ハッキリ言うのが男ってものよ」
「はい…」
「そもそもあなたにローレンシアと結婚する意志があるのか、そこが問題ね」
もちろん…いや多分…あるんです。
結婚なんて考えたことなかったから…まだ曖昧なのは事実です。
一度家に帰ろう。
僕はリナさんにお礼を言って、ダンジョンを抜けました。
口火を切って
こんにちは。
今日来たばっかりの旅の人に会いました。
ドゥイリオ君です。
同じ旅人だったこともあって、すぐ意気投合しました。
「ここの料理…うまいな」
「僕もそう思う。船の中のご飯、パサパサしてるし味気ないもんね」
「そうなんだよな。1年経ってから、また波に揺られながらあの料理を食べるのかと思うと、ゲンナリするよ」
そこでちょっと提案してみました。
「あー…どうかな。来たばっかで全く考えてなかった。もう少しこの国のことを知ってからだな。他にも国はあるし」
「そうだね」
ドゥイリオ君はこの国の前に、他に3つの国を回ってきたそうです。
ローレンシアちゃんとのデートは、初めて僕から当日リードしました。
「えー!初めてじゃない?嬉しいな、どこに連れて行ってくれるの?」
「秘密だよ♪」
初めて誘った僕には少し恥ずかしさもあります。
でも男らしくなってきたことを知らしめるために、酒場のお姉さんに見せびらかしに行くことにしました。
「周りの人にいっぱい見られるね…なんだか恥ずかしいな」
「ご、ごめん…他の場所が良かった…?」
「ううん、ちょっと優越感もあるよ」
そう言ってローレンシアちゃんは、ニッと笑います。
「ルーカス君……私も、そうだよ」
お姉さんがニヤニヤと見つめる中、僕たちは本当に楽しい時間を過ごしました。
ローレンシアちゃんが帰った後、お姉さんがニヤニヤと近づいてきます。
「あんた、やるじゃない」
「お、男らしいところ、お姉さんに見せようと思って…!」
「それでここに連れてきたのね。そんな男前なルーカス君に、お姉さんから、プレゼントよ♡」
手渡されたのは…
「(°_°)(°_°)(°_°)」
「男らしく、プロポーズしてきちゃいなさい」
…お姉さんは、僕の一枚も二枚も上手(うわて)でした…。
「敵わない…」
「さぁ、いってこーい」
お姉さんに背中を押され酒場を出ましたが、僕の向かう先は自分の家です。
何回目かのデートにして初めてやっと僕から誘えたのに…急に結婚だなんてそんなこと…。
急に責任がのしかかってきた気がして、少し憂鬱です。
仕事もない、お金もない、この国に馴染んだわけでもない。
成人してまだ社会経験も浅い僕が、ローレンシアちゃんを守れるかな…。
「まだ先でも…いいよね…」
僕はお姉さんからの依頼の紙を棚に挟み込みました。
ある休日のこと
今日は王国のみんなのお休みの日です。
畑仕事にお休みはないし、いつも通り畑に行きます。
結構実がなってます。
収穫をして、新しい種を買いに市場へ。
「青カッバっておいしいのかな。買ってみよう。」
食料品店はもうすっかり常連です。
「ルーカスくん、いらっしゃい。今日は王家の蜂蜜なんかどう?」
「蜂蜜かー。クッキーとか作れそうだなー」
そこへ、ローレンシアちゃんが来ました。
「ルーカス君、料理がんばってるんだね!今度私も作ったら渡しに行くね」
「楽しみにしてるよ」
ボワの実も採取して、集めたもので作れる料理を、酒場のお姉さんに聞きに行きます。
「お姉さー……ん?」
見覚えのあるものが落ちています。
これって…
{本当に君はヘタレだな…仕方ない、貰っておいてあげるよ…}
あ…マルチェロ君に押し付けた、小さな装飾品…。
酒場を出ると、マルチェロ君もちょうど出てきました。
「マルチェロ君!これ!」
「あ、あぁ…いや、知らない……悪い」
マルチェロ君は足早に去っていきました。
押し付けてしまったとはいえ、捨てられているのは癪に触ります。
海に捨てようとしましたが、環境破壊はよくないので、その辺に投げ捨てました。
…これじゃあマルチェロ君とやってること同じじゃないか…!
「ルーカス君?どうしたの、顔が怖いよ」
自暴自棄になっていると、ローレンシアちゃんがやって来ました。
「ルーカス君が怒るなんて、よっぽどのことがあったんだね」
さっきあったことを話します。
「そうだったの…せめて捨てずに、誰かにあげれば良かったのにね。マルチェロ君は女子にもモテてたし」
ローレンシアちゃんはとてもよくわかってくれます。
「元気出して。はい、これ、作ってきたの。ルーカス君の腕前には敵わないけど、少しでも気持ちが落ち着けば嬉しいな」
僕にはまだ名前もわからないスープです。
「いい匂いだね。ありがとう」
ローレンシアちゃんは帰って行きました。
帰った途端、さっきの怒りは悲しみに変わります。
釣りに来たホセ・マリアさんも慰めてくれます。
「おっ、いいのが釣れたな…おいおいルーカス、何があったか知らないが、そんなとこでしんみりしてたら、美味い魚も美味くなくなるから元気出せ」
気がつくと辺りはさっきより暗くなっていました。
ホセ・マリアさんも帰り支度を始めます。
「さて、結構釣ったし、帰るかな。ルーカス、そのスープ、冷める前に帰れよ。おやすみ」
すると…
「あら?これ…」
女の人の声が後ろからします。
僕が捨てた小さな装飾品を持っていく女の人がいます。
慌ててその姿を追いかけました。
「あ、あの…!」
「あら、あなたのでしたか?」
「いえ、いいんです!いいんですけど…その…いいんですか…?」
緊張と人見知りで、自分が何を言っているのか自分でもよくわかりません。
「ふふ、おかしな人ね。私には遅生まれの子が1人いてね、その子にあげようかなと思っているのよ」
「あの、あ、ありがとうございます…!」
「こちらこそ、ありがとう」
救われました。
なんだか、とても嬉しい。
マルチェロ君に捨てられたのは悲しいけど、巡り巡って本当に必要な人の元に行くのは、とても嬉しい。
捨てられないといいな。
あの人なら、大丈夫だよね。
夜遅くに気分よく帰って、ローレンシアちゃんにお返しの料理を作ります。
ちょっと作りすぎたけど、まあ、いっか。
I will give you all my love
こんにちは。
あれから何度も、ローレンシアちゃんにデートに誘われます。
僕が勇気を振り絞った日も、いつも先に誘ってくれるのはローレンシアちゃんです。
行動力があって、本当に素敵な女の子です。
それに反して、僕は相変わらずの意気地なしです。
ある日、
いつもの畑仕事を終えると、ローレンシアちゃんが家に向かっていました。
なんとなくついていきます。
「こ、ここが…ローレンシアちゃんの家…」
意を決して中へ。
ご両親がいたら、すぐおいとましよう…!
「あれー?ルーカス君!おはよー!」
ローレンシアちゃんだけだ…!
「おはよう」
「どうしたの?こんなところまで」
「あ…い、いや、元気かなって!」
「またご飯食べてないと思った?今食べたところだよ♪」
ローレンシアちゃんが無垢すぎて僕は泣きそうになりました。
お昼、ローレンシアちゃんが昨日誘ってくれたデートに行きます。
「今朝はビックリしたよー、まさかルーカス君が家に来るなんて!」
「へ、変な意味じゃないんだよ」
「ふふ、分かってるよ、ルーカス君はそんなことできないって、知ってるもん♪」
悔しいけど、図星です。
でも、いつまでもそんなこと思われてちゃ、男の名が廃ります…!!
僕は何回かのデートで初めて、行動に移すことに決めました!
「今日も楽しかったよ、またね♪」
「あ、あのさ…!」
「えっ…」
「い、いや、その…」
「ありがとう、お願いします!」
頑張った…とても頑張った…今日はワインを飲みたいくらいに頑張った…!
お互い妙に無言のまま、ローレンシアちゃんの家に着きます。
「ありがとうね、ルーカス君…」
「う、うん…」
僕らには珍しい沈黙が幕を下ろします。
デートは終わったんだ。僕はもう家を出ればいい。
なのに、足が動きません。
まだ何か足りないような、寂しいような、そんな気持ちが僕の心を支配します。
「ロ、ローレンシアちゃん…」
「うん…?」
これが、僕とローレンシアちゃんの、ファーストキスなのでした。
お知らせ
こんにちは、声の主です。
会社からの規制強化みたいなものにより、今回ルーカス君のデータを消すことにしました。
本アカウントまで消されるのは嫌なので。
やりたかったことは全部本アカウントに託します。
日記の貯めた分を全て消費するため、これから毎日更新します。
大した量はないのですぐ終わります。
終わり次第、この日記を打ち切ります。
それではっ!!
クヨクヨ
こんにちは。
川辺を歩いていると、なんと向こうからやってきました。
「お、いたいた。ルーカス!」
「僕も探してたんだ」
「ま、魔獣の森?!」
「もう余裕だろう?」
「いやいや、前に深い森で惨敗したくらい、まだまだだよ…」
「なんだ、てっきり君は、女子の間の噂がうっとうしいから、探索ばかりやってると思ってたよ」
「まさか…。代わりにさ、森の小道に付き合ってくれないかな」
「そこじゃポイント稼げないだろ(笑)」
そうだ…マルチェロ君は剣士が仕事なんだ…。
ポイント稼がないと儲からないよね…。
とりあえず郊外の方に歩きながら、マルチェロ君に報告です。
「ローレンシアからだよなやっぱり。そうだろうなって思ってたよ」
「う…」
「で?どうせウィアラさんにデートに誘えって、言われてるんでしょ?」
「…うん…誘えるかな…」
「おーい!ルーカス君!」
「お、彼女が来たみたいだよ。ほら、行きな」
「いたいたー!ルーカス君って意外と行動範囲広いね!」
「そ、そうかな」
「でね、聞きたいことがあって!」
「おわっ?!」
「えっなに?!」
「いや、ついビックリして…」
まさかこんなに早く、こんなにあっさりデートに誘われるとは…。
「いいよ、行こう!」
「よかった!じゃあ、街角広場に待ち合わせだよ♪ バイバイ!」
…また僕から誘えなかった…。